根管治療の成功率を高める4つのポイント
記事概要
高額な費用を支払い、自由診療で被せていたとしても、必ずしもその歯の根管治療が上手くいっているとは限らず、端的に言えば、高価な被せ物治療を行えば、『絶対安心』ということはありません。実は、根管は葉脈のように枝分かれしていたり、大きく曲がっていたり、石灰化で細くなっていたりと、非常に複雑な形態をしています。そのため、根管の中に潜む細菌を殺菌・消毒するのは困難を極めるのです。それが原因で根管治療が失敗していることも多く、このような根管の複雑性に対処するために、また、できるだけ手術をせずに根管治療を成功させるには、どうすれば良いのかについて解説しました。
1高価な被せ物をすることと根管治療の成功率は関係ありません
一般的に、歯の神経の治療を『根管治療』と言います。当サイトでも、何度も『根管治療』について説明しておりますが、歯の治療の中では、最も重要で、かつ最も難しい治療の一つであると言っても過言ではありません。
根管治療は、むし歯が重症化して歯痛を起こしたり、歯の神経の治療時にバイ菌が感染して歯根の周りに膿を持ってしまった時にする治療です。
根管治療は、被せ物をする前の歯の基礎工事のようなもので、とても重要な治療です。そのため、根管治療を疎かにすると、歯に被せ物をした後で、歯が痛んだり、歯の周りの歯茎が膿んで腫れてきたります。
つまり、根管治療は歯を長期的に快適に使うために、非常に大事な治療であり、根管治療が上手くいっていないと、場合によっては抜歯に直結してしまうこともあります。
また、根管治療が上手くいっていないと、根管治療をやり直すために、入れたばかりでも詰め物や被せ物を壊さなければいけなることもあります。
根管治療の成否には、白い被せ物や金合金などの被せ物の材質は影響しません。
たとえ、高額な費用を支払い、自由診療で被せたとしても、必ずしも根管治療が上手くいっているとは限らないのです。端的に言えば、高価な被せ物治療を行えば、『絶対安心』ということではないのです。
前述した通り、根管治療が上手くいっていなければ、高価な被せ物を壊して根管治療をやり直します。もしも、被せ物が高価で外したくない場合、被せ物を外さず手術(外科的歯内療法=歯根端切除術)をすることを勧められるかもしれませんが、そもそも根管がきちんと再消毒できていなければ、手術をしても(細菌感染のある根の先端を切除して逆根管充填すること)、根管内で繁殖した細菌が歯根の先からまた出てくる可能性があります。そうなると、手術は失敗に終わります。
手術が必要なケースでは、手術の成功率を上げるために、根管の消毒が事前に徹底的にできていないといけないのです。根管治療で治すにしても、手術で治すにしても、根管を隅々まで殺菌消毒する高度な治療技術が要求されます。
2日本で根管治療が上手くいかない理由
まずは、根管治療が上手くいっていない理由を理解しなければなりません。
根管治療が上手くいっていない状態とは、根管(歯の神経の通り道)が細菌感染しており、歯根の周りに膿を持っている状態です。この膿は必ず細菌が関与しています。もともと細菌が感染しなければ膿はできませんし、根管から細菌がいなくなれば膿は消えます。膿ができるのも、膿が消えないのも、根管のどこかに細菌がいるからです。
それでは、なぜ、治療しても細菌が根管から消えないのでしょうか。
なぜなら、細菌の殺菌・消毒を阻むのは、根管が複雑であるという理由からです。
実は、根管は葉脈のように枝分かれしていたり、大きく曲がっていたり、石灰化で細くなっていたりと、非常に複雑な形態をしています。そのため、根管の中に潜む細菌を殺菌・消毒するのは困難を極めるのです。そして、それらに対応できていないため、日本では根管治療の成功率がとても低い状態(成功率30〜50%と言われています)になってしまっています。
「根管治療の成功率」データ根拠はこちら
それでは、根管の複雑性に対処するためには、できるだけ手術をせずに根管治療を成功させるには、どうすれば良いのかについて、これから説明したいと思います。
3根管治療の成功率を上げるための4つのポイント
①根管の状態の診断
まずは、根管の状態を診断します。根管がどれくらい複雑かを診査します。
例えば、見落とされている根管はないか、どこで枝分かれしているか、どのくらい曲がっているか、等など、CTスキャン画像を参考にして根管の状態を診断しながら治療を進めていきます。
例えば、下のCT画像では、以前の根管治療で見落とされているらしい根管(赤い矢印のところ)が確認できます。白い線状のものは根管の蓋、赤い矢印の先の黒い線状のものは根管に蓋がされていない状態です。根尖病巣(歯根をとり囲む影)の原因は、赤い矢印のところの未治療の根管の細菌感染が原因と思われます。
このように、根管の状態を事前に確認し、治療時の根管の見落としなどを無くていきます。
②治療用顕微鏡による目視での治療
歯の神経の通り道である根管は狭く、暗く肉眼やルーペではよく見えません。
そのため、通常根管治療は手探りや勘に頼ることも多く、細菌が潜む根管を見逃し、殺菌・消毒すべき根管までたどり着けないこともあります。
また、根管が上手く見つからずに誤った方向に器具を進めて、全く関係のないところに穴を開けてしまうこともあります。
そういうことから、根管を明るく照らし、拡大して状況を目視で確認できる治療用顕微鏡が根管治療には大きな力を発揮します。そのため当医院は、根管治療時には根管をより明るく照らせるキセノンライトの顕微鏡を使用しています。
③根管内をより良く殺菌・消毒できる薬剤と機材の使用
次に大事なのは、殺菌および消毒方法です。
当院では、根管内に潜むバイ菌を殺菌する薬剤として、次亜塩素酸ナトリウムとEDTAという薬剤を使います。
次亜塩素酸は非常に優れた消毒剤で、超音波洗浄の機材と組み合わせると強力な洗浄効果を発揮します。
また、その消毒効果をさらに高めるために、根管治療時に発生する削りかすによる目詰まりを溶かす必要があります。その目詰まりを溶かし、消毒薬を隅々まで行きわたるようにする薬剤がEDTAです。
また、洗浄の機材としてはピエゾフローという超音波を発生させて薬液を攪拌させる機材を使用すると良いです。その機材はアメリカの根管治療の専門医の多くが使用しているものです。
④清潔な機材の使用やラバーダム防湿法など、感染対策を徹底する
そして、最後に、根管治療で一番大事なポイントについてです。
それは、できる限り清潔な状態で治療をすることです。
そもそも、根管治療時に細菌が根管に入って来なければ根管治療は失敗しません。ですから、根管治療時には最大限の感染対策をすることが必要です。
根管治療に使う機材の滅菌はもちろん、ラバーダム防湿というゴムのシートで根管と口を隔絶させることにより、できる限り唾液から根管に細菌が感染するのを防ぎます。
また、次亜塩素酸などの歯肉に漏洩させたくない消毒剤も安心して使うことができます。歯肉への漏洩が怖くて適切な消毒剤を十分つかえなければ、本来治るはずの病変がそれによって治らないということが起こり得ます。
ラバーダム防湿は、根管治療には必須なのです。
参考までにラバーダム防湿の実際の動画をご覧ください。
参考までにラバーダム防湿の実際の動画をご覧ください。
根管治療は、細菌との戦いです。目に見えないくらい小さい細菌が相手なのです。以上のことを実践することにより根管治療の成功率は確実に向上します。
ここまで「根管治療の成功率を上げるポイント」について記述しました。書くことは誰にでもできますが、実際の治療は非常に熟練した高度な技術が必要です。また、治療機材はもちろんのこと、必要な治療時間を十分とることも重要です。
ただ、根管治療はどんな名人がやっても成功率は100%ではありませんので、まずは歯の神経を残す治療、また治療する以前のむし歯の予防が最も大切であることを最後に強調したいと思います。
関連ページ
- 根管治療について詳しくはこちら GO
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞