記事概要
年齢を重ねるにつれて伴ってくるお口の乾燥によって発症、また進行しやすくなるむし歯は非常に深刻です。なぜなら、高齢者のむし歯は多発性で、かつ進行も早く、抜歯に繋がりやすいからです。そこで今回は、むし歯の発症・進行に大きな影響を及ぼす「お口の乾燥」についてお話したいと思います。
1長寿社会で、より一層大切なお口の健康
日本人の平均寿命は、年々更新されており、平成29年(2017年)の調査によると日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳で、2016年と比較して男性は0.11年、女性は0.13年上回ったと発表されています。(参考:http://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/2.html) また、平均寿命の男女差は6.17年で前年より0.01年増加し、女性の方が長生きのようです。
このような長寿社会において、健康で長生きをするためには、お口の中をいかに健康に保てるかにかかっていると言っても過言ではありません。
近年、全身の様々な臓器で起こる疾患に、歯周病などのお口の中で起こる疾患が関与していることがわかってきています。お口の中の疾患が、お口の中だけの問題ではなく、全身疾患に影響を及ぼすこともあると考えておくほうが良いのです。
歯を長持ちさせ楽しい食生活を日々おくるために、さらには、誤嚥性肺炎など、様々な全身疾患を予防するためにも、むし歯や歯周病の管理、日々の口腔ケアは、ますます重要になってきています。
そんな中で、年齢を重ねるにつれて伴ってくるお口の乾燥によって発症、また進行しやすくなるむし歯は非常に深刻です。なぜなら、高齢者のむし歯は多発性で、かつ進行も早く、抜歯に繋がりやすいからです。そこで今回は、むし歯の発症・進行に大きな影響を及ぼす「お口の乾燥」についてお話したいと思います。
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2むし歯の発症に大きく関わる唾液減少
みなさんは、お口の乾燥(以下、口腔乾燥)がむし歯の増悪因子であることをご存じでしょうか?おそらく、むし歯が口腔乾燥の影響を受ける事は、知らない方が多いと思います。
むし歯は、むし歯菌が出す酸が原因で発症・進行しますが、その中でも、むし歯を進行させやすくする因子がいくつかあります。 その一つが、口腔乾燥です。そして口腔乾燥は、多くは唾液の減少によって起こります。
実は、口腔乾燥は非常に深刻な問題です。なぜなら、唾液はむし歯の進行を食い止めてくれる唯一のものだからです。 以前のコラム(歯「磨き」は、もうやめましょう。)でも説明しましたが、もう一度、こちらの図(ステファンカーブ)を使って説明していきたいと思います。
上記の図をみてもおわかりのように、食べたり飲んだりすると、むし歯菌が酸を出し、プラーク(歯垢)が酸性になっていきます。その後、更に酸性が進んで臨界pHを超えると、歯が溶け始めます。この現象を「脱灰」と言います。この「脱灰」という現象がむし歯の正体です。
しかし、お口の中はよくできていて、酸性が進んでいっても、また時間と共に、唾液により、むし歯菌が出した酸は中和され、中性に戻っていきます。 中性に戻ってくると、唾液により歯の表面の修復が更に起こります。この現象を「再石灰化」と言います。つまり唾液が、むし歯が進まないように常に抑えてくれているのです。唾液が無いと、むし歯の進行を抑えてくれるものが無く、むし歯が進行し放題になってしまいます。
このように、むし歯の発症や抑制には、唾液が関与しているという事を理解していただきたいと思います。では、どのようにして口腔乾燥が起こりえるのでしょうか。
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3口腔乾燥の原因
口腔乾燥は、主に唾液腺からの唾液の分泌の減少によって起こります。
口腔乾燥の主な原因は、全身疾患からくるもの、薬物の副作用、神経的なもの、口腔内の局所的な疾患、加齢によるものなどがあります。次に、これらについて簡単にお話ししたいと思います。
1)全身疾患からくる口腔乾燥
全身疾患からくる口腔乾燥には、糖尿病・シェーグレン症候群・腎障害・脱水などがあげられます。
糖尿病では、頻尿による脱水・インスリンの分泌減少やインスリン感受性の低下による唾液腺の分泌低下が考えられます。シェーグレン症候群は自己免疫疾患で、涙腺・唾液腺・関節などで炎症が起こります。その炎症により唾液腺が壊され唾液の分泌が減少します。嘔吐・下痢・発汗による脱水も口腔乾燥の原因になりえます。
2)薬物の副作用からくる口腔乾燥
薬物の副作用には、主作用と副作用があります。主作用はその薬剤の本来の目的作用、副作用は本来の目的以外の薬の作用を言います。薬の副作用で唾液の分泌が抑制されることがあり、それが慢性的な場合、知らず知らずに口腔乾燥を起こしてむし歯のリスクが上げてしまう可能性があります。お薬を内服する際には、起こりやすい副作用について把握しておいたほうが良いでしょう。
3)ストレスからくる口腔乾燥
人は過度なストレスを感じると、交感神経を刺激し唾液の分泌を減少させます。皆さんは緊張した時、口の中がカラカラに渇く経験をされたことがあると思います。これは、交感神経が優位になり、唾液の分泌が低下したことによるものです。また、唾液腺を支配する神経の障害により唾液の分泌の減少を起こすことがあります。
4)治療からくる口腔乾燥
癌治療などの頭頚部への放射線治療による唾液腺障害などから口腔乾燥を起こすこともあります。
5)口呼吸からくる口腔乾燥
口呼吸も口腔乾燥を起こすことがあります。口呼吸とは、平時の呼吸でも口を使って行う呼吸です。口呼吸は、鼻疾患や習癖、歯並びの影響が出ていることもあります。
6)加齢からくる口腔乾燥
加齢により、のどの渇きなどの感覚機能の衰えによる水分摂取の減少や、抜歯や義歯不適による咀嚼運動の減少も唾液分泌の原因になると考えられます。特に、高齢者は歯周病で歯肉が後退し、むし歯菌が出す酸に弱い歯の根っこが露出していることも多く、さらにむし歯の重症化を早めてしまい、抜歯になる確率を上げてしまいます。
4口腔乾燥からくるむし歯を予防するために
以上のことを踏まえ、まずはご自身が口腔乾燥を起こしている可能性があることを認識していただくことから始まります。そして、やはりどのように対処すべきか専門家の意見を仰ぐべきでしょう。
口腔乾燥によるむし歯の発症を抑えるためには、歯科医師・歯科衛生士による正確な歯磨き指導と、生活習慣指導が必要となります。また、基礎疾患の治療、口腔乾燥を起こす薬の処方の変更、唾液腺マッサージなどにより唾液の分泌を図ることも必要です。
更に、一度できてしまったむし歯は、治療後に再発させないことが大切です。現在では、顕微鏡歯科治療という新しい治療方法があり、むし歯を早期発見し、精度の高い詰め物や被せ物と正しい口腔ケアと予防の知識でむし歯の再発を最小限にすることが可能になってきています。
80歳で20本以上の歯があれば、生涯食べる楽しみを味わえると言われています。そして、自分の歯で食べられるように、お口の中の健康を保つことが、全身の健康へと繋がっていきます。 まずは、ご自身のお口の中に関心を持ち、相談できる歯科医院を見つけることをお勧めします。
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞