記事概要
歯科で使われる『隔壁』は、二つの空間を隔てる壁のことで、いわば『仕切り』のことです。そして、ラバーダム防湿を可能にし、またより確かなものにしてくれます。今回は、歯科治療時に必要である隔壁の有用性についてお話したいと思います。
当医院は、顕微鏡歯科治療専門の歯科医院です。2010年より、むし歯治療(詰め物・被せ物)、根管治療、歯周病治療、抜歯などの口腔外科手術、定期検診など、全ての治療に歯科用顕微鏡を使用し、治療の成功率を高めてきました。長年、歯科用顕微鏡を使って治療してきた結果、治療成功率の高さ、予後の良さを日々実感しています。皆さんのお悩みを真剣に解決するため、これまで蓄積してきた顕微鏡歯科治療の知識と技術をもって貢献したいと思っています。
当医院の専門である顕微鏡歯科の視点を踏まえて、治療を成功させるためになぜ隔壁が必要か、説明していきたいと思います。
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
歯科医師岡野 眞
1初めに
様々な歯の治療時に、ラバーダムというゴム製のシートを患歯にかけます。この処置をラバーダム防湿と言います。ラバーダム防湿は、治療する歯とお口の中を隔絶させるために行われる処置です。
しかし、ラバーダムシートをかけるには、ある程度、歯の高さがなければなりません。歯が大きく欠損していると、ラバーダム防湿ができないのです。そこで、ラバーダム防湿をするための前準備として『隔壁』を製作します。どんなに大きく欠損した歯でも、『隔壁』を作成することで、ラバーダム防湿処置を施すことができるようになります。
では、ラバーダム防湿をすると、治療にどのようなメリットがあるのでしょうか。
2根管治療で有効です
根管治療時において、根管内に唾液を侵入させないためにラバーダム防湿をします。根管治療を成功させるためには、根管内を完全に消毒・殺菌する必要があります。根管治療しながら、根管に唾液が侵入して細菌感染を起こしてしまっては、何度根管治療を繰り返しても根管は綺麗になりません。根管治療時に唾液に含まれる細菌などが根管に侵入しないように、ラバーダム防湿をするのです。
また、ラバーダム防湿を行うことで、根管治療で使う薬剤が歯茎やのどに漏れるのを防ぐことができます。根管の清掃は、根管内を根管治療専用の器材によって物理的に削る清掃と、消毒剤によって根管内を殺菌・消毒する化学的な清掃があります。精密な根管治療には治療用顕微鏡が必須ですが、観ながら清掃する物理的清掃が治療用顕微鏡を使う第一の目的です。
根管は、顕微鏡では根管の先まで見えない曲がった根管や直角に曲がった側枝など複雑を極め、機械的な根管の清掃は限界があり、隅々まで根管内を綺麗にするのは難しいのが現実です。根管清掃の器具が届かないところは、根管消毒剤などの薬剤による殺菌・消毒に頼りざるを得ず、根管内を隅々まで綺麗にするためには適切な消毒剤を使うことが必須となります。
根管を化学的に清掃する時に必ず使うべき薬剤の中に次亜塩素酸ナトリウムという薬剤があります。この薬剤は、皆さんが良く知る漂白剤です。ただ、次亜塩素酸ナトリウムは、歯茎やのどに漏れてしまうのは避けなければなりません。そうなると、次亜塩素酸ナトリウムが漏れるのを恐れるあまり、使うことができないということになってしまいます。根管治療に必要な薬剤を使わなければ、膿が治らない可能性がでてきてしまうのです。
ラバーダム防湿を施すことで、薬剤が歯茎やのどに漏れるのを防止できるので、安全に適切な薬剤を使えるようになり、根管治療の成功率を上げることができるようになります。
根管治療時には、歯が大きく欠損していることも多いので隔壁によりラバーダム防湿ができるようになります。
3歯の神経の保存治療に有効です
むし歯が大きいと、むし歯の除去時に歯髄(歯の神経)が露出することがあります。歯髄が露出した部位を適切に封鎖し、歯髄を保存する処置を覆髄と言います。
覆髄をする時に、歯髄の露出部が唾液で汚染されないよう、また露出部を薬剤で消毒し適切な材料で封鎖しやすいようにするためにラバーダム防湿をします。それにより、覆髄の成功率を上げることができます。
歯髄が露出する程むし歯が大きいとラバーダム防湿ができないため、事前に隔壁を作製してからラバーダム防湿を設置し、むし歯の除去を開始します。
4歯の詰め物の治療時に有効です
ラバーダム防湿をすると、詰め物(インレー、コンポジットレジン充填)をする時に、歯にしっかり接着させやすくなるという利点があります。詰め物の治療時に、接着部位に唾液や歯茎から出る血液が詰め物をするところについてしまうと、その場所の接着剤の効果が薄れ、詰め物が接着しにくくなってしまいます。結果、詰め物が外れやすくなったり、接着部位からむし歯が再発しやすくなってしまいます。
ラバーダム防湿をすることによって、接着剤の接着力を最大にすることができるのです。
5詰め物や被せ物を安全に除去できます
詰め物や被せ物を歯から撤去するのに、詰め物や被せ物を切削器具で削ったり、詰め物や被せ物に器具を引っ掛けて外したりします。その時、外れてきた詰め物や被せ物が喉の方に落ち込み、患者さんが飲み込んでしまうことがあります。これを誤飲と言います。ラバーダム防湿をすれば、外れてきた詰め物や被せ物が喉の奥に落ちることが無くなり、誤飲を防止することができ、安全に除去をすることができます。また、治療時の器具の誤飲や、切削片や壊死物質など汚れたものの嚥下なども防ぐことができます。
6治療する歯が見やすくなります
根管治療やむし歯治療時などに、ラバーダム防湿をすることにより、患歯に舌や頬が被ってくるのを抑え、よく見えるようにすることができます。それにより、勘ではなく目視による確実な治療ができるようになります。
7舌や頬を傷つけません
歯に舌や頬が被ってきていると、歯の治療をする切削器具で傷つけてしまいことがあります。ラバーダム防湿を設置することにより、治療する歯より被ってきている舌や頬の粘膜を排除し、器具で傷つけることが無くなります。
また、詰め物や被せ物を外す時に、お口の粘膜に飛んでいくことがあり、それにより粘膜が傷つくことがあります。ラバーダム防湿により粘膜がシートで隠されるので、飛んでくる削片から粘膜を守ることもできます。
8隔壁は、歯の治療に必要なのです!
ラバーダム防湿は、治療する歯とお口の中を隔絶させるために行われる処置です。上記のように、ラバーダム防湿は歯の治療において良いことづくめなのです。
そして、『隔壁』作製は、ラバーダム防湿をし治療全体を安全に確実に行うために必須の処置です。隔壁を作ることにより、歯の治療時の事故を防いだり治療の成功率を上げることができます。
『隔壁』の作成の治療時間は、約60分です。歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を除きながら、丁寧に『隔壁』を作製します。当院では根管治療は元より、その他の歯の治療時にも『隔壁』を作製し、治療の成功率を上げています。安心・安全な治療をここがけています。
以下は、隔壁作製の動画です。
9症例紹介:他院で根管治療中に歯茎が腫れてしまった方が、隔壁作成後に再根管治療で膿が改善したケース
《お悩み》
根管治療をしても、歯茎の腫れが治らないという事で当院に来院された患者さんです。
《症状と臨床所見》
下顎右側の奥歯の歯茎が赤く腫れて歯肉に膿瘍がみられます(photo.1)。レントゲン画像とCT画像を確認すると歯根を取り巻くように歯槽骨の吸収がみられました(photo.2)。以上の所見より根尖性歯周炎が疑われました。また、膿が大きく、歯根破折も考えられるケースです。
《治療》
CT画像にて根管の走行や形態、歯の残存量(歯として使える量が残っているか)をチェックしたのち、ラバーダム防湿の設置を可能にするために隔壁を作成しました。
その後、ラバーダム防湿を行い、治療用顕微鏡を使って再根管治療(非外科的歯内療法)を行いました。顕微鏡下で根管内を確認したところ、歯根破折は認められませんでした。
《治療後》
再根管治療により、患部の歯肉膿瘍が消失。
治療後のCT画像でも根尖病変の透過像の消失と歯槽骨の再生が確認できたので精密な被せ物をし、治療が完了となりました。
下が治療6ヶ月後のCT画像です(photo.3)。膿の影が消失し歯根の周りの歯槽骨が再生しています。
《主な副作用》
ラバーダム防湿が必要になり、開口時間が長くなります。歯科用顕微鏡による精密根管治療は、肉眼や拡大鏡では見えないところ(治療が不十分であった部分)が見えるようになるため、なすべき治療が増えるので治療時間や治療日数がかかります。
《治療期間》
おおよそ、3〜5日(1回1時間の目算です。)
《治療費》
根管治療費(消費税込み):大臼歯 176,000円 (根管治療費以外に別途、被せ物・土台除去、隔壁作製の費用がかかることがあります。詳細は、お問い合わせください。)
10歯の神経の治療(根管治療)中や被せ物治療後の歯茎の腫れや膿で悩んでいる方の治療メニュー
当院では、何度根管治療をしても歯茎の腫れや膿が治らない方に、以下のように治療を進めていきます。ただし、これは一般的な治療方針です。患者さんの個々の状況により、治療内容に多少の差異が生じます。
膿で悩んでいる方は、一度、お電話でお問合せいただくことをオススメいたします。
STEP.1
初回カウンセリング
問診でお口の問題をヒアリング初診当日はカウンセリングとなります。
① 問診表の記入
② マイクロスコープ検査、レントゲン・CT撮影と診断
③ 治療計画および治療内容のご説明
※治療期間、費用等、患者さんと相談の上、治療方針を決定いたします。その後、次回の治療予約となります。
STEP.2
隔壁作製
まずは、隔壁を作製します。隔壁とは、唾液から根管への細菌感染を防ぐためと、根管治療で次亜塩素酸ナトリウムなどの適切な薬剤を安全に使えるようにするためのラバーダム防湿を行う為に作成する「壁」の事です。大きく歯が欠損していても隔壁を作ることでラバーダム防湿ができるようになり、この先の治療が安全に確実に行えるようになります。なお、「隔壁作製」前に、被せ物・詰め物・土台・裏層の除去が必要なことがあります。
STEP.3
根管治療開始
ここから根管治療の開始となります。1回の治療時間は、約60分ほどです。治療回数は、治療する歯の根管の数や根管の複雑さによって変わります。(治療回数はおおよそ1~5回位です)
根管治療時は、毎回、ラバーダム防湿を設置します。そして、CT画像を確認しながら治療用顕微鏡下で根管の清掃・殺菌・消毒・根管充填を精密に行います。
STEP.4
支台築造・仮歯作製
根管治療が完了した後は、土台作製(支台築造)を行っていきます。当院では、土台作製時にもラバーダム防湿を行います。また、必要に応じて更に仮歯を作製し、経過観察に入ります。
STEP.5
治療判定
当医院では通常、根管治療終了後6ヶ月後に患部のCT撮影を行い、治療効果を判定します。
根尖病変(根の先の膿)の改善がみられた場合は、被せ物治療に移っていきます。被せ物治療は、むし歯が再発し根管に再感染しないよう、治療用顕微鏡を使って精密に行います。
根尖病変の改善が見られない場合は、患者さんと相談後、外科的歯内療法、歯根の部分抜歯などを予定します。
11当医院ではセカンド・オピニオンも行っています
CHECK
他院で治療中であっても可能です
- 根管治療をやり直しているが、膿んで歯茎が腫れてきてしまう。
- 根管治療しても膿や歯茎の腫れや消えないので抜歯と言われた・・・
- 痛みが無いのに膿が何故か消えない・・・
という方は、お気軽にご相談ください。
当院は自由診療となっております。以下に治療費を掲載いたします。
※各種クレジットカードでお支払いいただけます。
カウンセリング料金 ¥11,000
・顕微鏡による、むし歯・歯周病検査など
・レントゲン撮影
CT撮影料金 ¥11,000
通常、CT撮影は別途 33,000円がかかりますが、初回のみ11,000円で撮影します。
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞