記事概要
皆さんの中には、やむなく歯の神経を抜いてしまった方も多いのではないでしょうか?まだ神経が残っている歯は神経をとらないようにすることが、お口のトラブルを回避するために重要です。歯の神経を抜いた後に起こりえる事と歯の神経を残すメリットについて解説し、歯の神経を残すためのポイントをご紹介します。
1やむなく歯の神経を抜いてしまった方へ
歯の神経に達するほどのむし歯になると歯の神経を抜く治療をすることがあります。もちろん、必要な歯科治療であり、やむを得ないことも多いです。
むし歯で歯の神経が侵され、夜も眠れないほど痛んだり、咬むと飛び上がるくらい痛かったりすると、早く痛みを止めて欲しいと思いますよね。
この歯痛は、むし歯菌によって歯の神経に炎症が起こっているのが主な原因です。多くの場合、歯の神経をとって痛みを抑える処置がとられます。
しかし、歯の神経をとることによって、その後予期しないトラブルを起こしやすくなることがあります。
止む無く歯の神経を抜かなければならなかった事は残念ではありますが、まだ神経が残っている歯は、神経をとらないようにすることが、お口の中のトラブルを回避するためにとても大切であることを改めてお話ししたいと思います。
それでは、歯の神経を抜いた後に起こりえる事と、歯の神経を残すメリットについて説明していきます。
21.歯の神経(歯髄)は歯に栄養を届ける大事な組織
歯の神経を抜いた後には、様々なトラブルが起こりえます。
歯の神経の事を専門用語では『歯髄』と呼びます。この歯髄は、ちょうど歯の真ん中に位置しています。
この歯髄は、血管や神経などが通っていて、歯に栄養を届ける重要な組織です。さらに、歯に加えられる機械的、化学的、温度的刺激を痛みとして伝える役割もあります。その他、歯髄は歯髄内壁に防御反応として象牙質を添加したり、むし歯などの細菌感染に対して歯髄炎という炎症を起こしたりします。
歯の神経を抜く治療は、歯髄を歯から取り除く治療です。歯髄が無くなることにより、歯に栄養は届かなくなり、また刺激による痛みなども感じなくなります。
歯にとって大切な組織である歯髄は、このように重要な役割を担う組織であることを知っておいていただきたいと思います。
重症なむし歯や歯根破折などの原因で、歯髄(歯の神経)を取り除かなければならない事があります。歯から神経をとる治療を抜髄と言います。抜髄は根管治療という歯の神経の治療の一つです。そして、この根管治療の成否は、その後の歯の寿命に大きく関わってきます。
しかし、日本での歯の神経の治療(根管治療)の成功率は30~50%とも言われています。(※データの根拠はこちら)根管治療が上手くいっていないと、歯の根の先に膿を持ってきたり、歯が後に痛んだりなどのトラブルを起こしてきます。その根管治療がうまくいかないと、根管治療のやり直しをしますが、根管治療の成功率は低いので、また再根管治療をしなければならなくなる可能性があります。そうすると、根管治療の再治療、再々治療、再再々治療と、再治療のスパイラルにはまっていきます。
困ったことに、根管治療は何回再治療しても、今度こそは治るという保証はないのです。逆に、再治療を重ねるたびに治りにくくなるとさえ言われています。そして、治らなければ、最後には歯を抜かなければなりません(抜歯)。これはできたら避けたいですよね。
当医院としては、(最初から根管治療しかないケースもありますが、)たとえ、むし歯が重症であっても、まずは神経を残す努力をする事をお勧めしています。当医院では、歯の神経を残す努力をして、ダメならば歯の神経を抜く(抜髄をする)という方針で進めていくことが多いです。
まずは、すぐに歯の神経を抜くのではなく、歯の神経を残す努力をする、これが歯を長持ちさせることに繋がっていくのです。
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32.神経が残っているとむし歯に気づきやすい
次に、被せ物の話をいたします。
詰め物や被せ物をすると、その歯はむし歯が起こりにくくなると考えがちですが、実は逆です。
高い頻度で、歯と詰め物や被せ物との繋ぎ目からむし歯が再発してきます。むし歯が再発すると、神経が残っている歯では、痛みが生じますので、むし歯が進行してきているのに気づくことができますが、神経が無い歯は痛みがでませんので、むし歯の再発に気がつかず、その結果むし歯がどんどん進行してしまい、最悪は抜歯に至ることがあります。
むし歯が進行し被せ物が外れてきた時には、土台の根まで大きく浸蝕され、もう抜歯ししかない状態になってしまっていることもあります。重症なむし歯でも抜歯せずにギリギリで助かることもありますが、残りの歯の部分が薄かったりすることも多いので、根が割れ易く被せ直した後も長持ちしにくいことが考えられます。
このように、歯の神経が残っていると、むし歯が再発に気づくことができ、早期に治療することによって歯を抜かずに済む確率が上がるというメリットがあります。
43.歯の根に入れる支柱によって歯は割れやすくなる
また、根管治療を受けた歯は残存歯質が少なく、根管に埋め込まれる支柱が楔効果を発揮して割れやすくなるようです。よって、歯の神経を残すということは、歯の残存歯質が多く、支柱が根管に入らないため、結果、歯が割れず抜歯されないことに繋がっていきます。だから、神経を残すことが重要なんですね。
歯の神経を抜かれた歯は、むし歯で歯が既に大きく欠損していることが多く、被せ物をするために支柱を歯の根に埋め込みます。
大きく欠損してしまって、ただでさえ脆くなっている歯の根に、金属製の支柱をはめ込むと、楔の様な効果が出て歯の根にひびが入ったり、根が割れてきたりしやすくなります。結果、歯の根が割れてくると抜歯となってしまいます。
歯の神経が残っていれば、歯の欠損も最小限になりますし、金属製の支柱をはめ込む機会も減りますので、歯の根が割れにくく抜歯を免れることに繋がります。
54.メタルコアによる歯ぐきの黒ずみ
あともう一つ、メタルコアのデメリットについてご説明します。
歯の神経を抜くと歯が黒っぽく変色してしまうことがあります。歯ぐきから上は、被せ物で変色を隠せますが、歯ぐきの下の歯の根の変色は歯肉を黒ずんで見せてしまうことがあります。
これは、金属の支柱を歯の根に埋め込むことで、この支柱(メタルコア)の金属が溶出して歯に染み込んで黒く変色していることが考えられます。
この黒ずみを防止するためにも、メタルコアではなくファイバーコアを選択した方が良い場合がありますので、主治医と相談していただければと思います。
当然のことながら、歯に被せ物をする場合も、歯の神経が残っていたほうが、歯の回りの歯肉を自然な色に見せることができます。
65.乳歯の歯の神経治療は慎重に
最後に、乳歯の神経の治療について説明したいと思います。
乳歯のむし歯は、すぐに神経の治療が必要になりやすいです。もともと歯が小さいので、歯の厚みが無いため、むし歯菌が神経に入り込みやすいからです。
そして、乳歯の神経が死んでしまっている、もしくは乳歯の神経の治療が上手くいっていない場合も、永久歯と同じように根の先に膿が溜まってきます。
さらに、乳歯の下に控えている後継永久歯に影響が及ぶことがあります。乳歯の根のすぐ下には生え替わりの永久歯があり、その永久歯にバイ菌が感染すると、永久歯が正常な形態で生えてこなかったり、永久歯が咬み合せやむし歯に耐えられる十分な硬さにならなかったり、歯が変色して生えてきたりと、永久歯が上手く出来ずに生えてくる可能性があるのです。
これは「ターナーの歯」と呼ばれます。このような、永久歯の形成不全を起こすことがありますので、乳歯もできるだけ歯の神経を生かすことをお勧めします。
永久歯を正常な状態で生えさせるためにも、乳歯の神経が残っていることが、最も重要です。
7歯の神経を残すためのまとめ
以上のように、歯の神経を残すことは、歯のトラブルを回避するのに、とても重要であることがお分かりいただけましたでしょうか?これらをまとめて、歯の神経を残すためのポイントを下記に列挙いたします。
(1) 根管治療をしなくて済むように、まずは予防に努めること。そのためには、セルフケアを細かく指導してくれる歯科医院にかかること。セルフケアによる予防が、一番予防が確実だからです。
(2) むし歯の治療で、詰め物・被せ物をする場合は、精度を高めてむし歯の再発を最小限にすること。そのためには、確実に精度の高い詰め物・被せ物をしてくれる歯科医院にかかること。
(3) むし歯の治療時には、神経を残すよう努めること。これも、ラバーダム防湿するなど神経の保存処置をしっかりしてくれる歯科医院を選ぶことが重要です。
これらが、歯の神経を残していくためのポイントです。歯科医院頼みになってはしまいますが、歯の治療で悩まれている方は、是非信頼できる顕微鏡歯科医に相談されることをお勧めします。
こちらは歯の神経を残す治療『覆髄』についての動画です。ぜひ、御覧ください。
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顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞