根管治療の難症例、治療用顕微鏡を使用しても難しい根管治療とは?【動画で見る、顕微鏡歯科治療と根管治療:Vol.7】
記事概要
根管治療は特にマニュアル通りに治療をすれば治るわけではありません。歯科用顕微鏡を使用しても治療が難しい、難症例の根管治療について解説しました。
1根管治療は、簡単ではない
『根管治療』とは炎症や感染を起こした歯髄を除去し、その後根管をきれいに消毒し、再感染を防ぐために根管に詰め物をしてふさぐ治療法のことです。
「歯髄」(しずい )とは、いわゆる歯の神経のことで歯の中心にある歯髄腔にあります。 歯髄は神経のほか、血管やリンパ管などから構成されており、血管を通じて歯に栄養を送ります。
歯髄は歯の健康に直結する組織であり、歯を長持ちさせるためには歯髄をできるだけ生きながらえさせることが重要です。むし歯が重症化すると、傷んだ歯髄をとる『根管治療』をしなければいけないこともあります。
しかし、根管治療をしても、安心できるわけではありません。
日本における根管治療の成功率は非常に低く、多くの人が再根管治療に至っていると言われています。(日本における根管治療の成功率について)
例えば、根管治療が上手くいかないと、歯肉が腫れたり、痛くて噛めなくなったり、何もしなくても痛み出したりします。また、実際には上手くいっていないのに痛まないこともあり、その歯に問題があっても気づかずに長い時間を過ごされている方も多いです。
ここで皆さんに知っておいていただきたいのは、根管治療は特にマニュアル通りに治療をすれば治るわけでは無いのです。
ここからは、再根管治療についてお話したいと思います。
2歯根湾曲、根管の閉塞しているケースは根管治療が難しい
最初の根管治療がうまくいかなかった場合、根管治療をやり直す必要があります。
これを再根管治療といいます。
実は、再根管治療は簡単ではありません。
再根管治療は、非常に困難で難易度が高い場合があり、難易度が高ければ高いほど治る確率も下がっていきます。
これら難症例の代表的なものが、歯根が大きく湾曲していたり、歯の神経の通り道である根管が石灰沈着で塞がっているケースです。
歯根が湾曲していると、歯根の中を通っている根管も同様に湾曲しています。
湾曲が大きければ大きいほど、根管を清掃する器具が入りにくく、途中で引っかかってしまい、歯根の先まで根管をきれいに清掃できません。
また、引っかかった先に清掃器具を無理に通そうとすると、引っかかった場所がますます削れていき、引っかかりがさらに酷くなります。こうなると、その先に清掃器具がもう入らなくなります。結果、その先の根管の感染を除去することができず、根管治療は失敗してしまいます。根管治療を成功させるためには、根管の感染している部分を完全に取り除くことが必要です。
また、根の先に膿があるのに根管が石灰沈着で埋まってしまっていることがあります。
根管が石灰化して塞がっているのに根の先に膿があるということは、必ずその塞がった根管のどこかを通って細菌が根の先にたどり着いているはずなのです。しかし、石灰沈着により根管が塞がっていると、細菌が根管の中へ入っていったルートがわからず根管の感染を除去することができません。
そうすると、根の先にある膿を治すことができないということになります。
3湾曲根管の再根管治療は難しい
以上のように根管治療が十分に行えなかった場合には、外科的歯内療法という手術で治療することもあります。しかし、手術する根の根管が事前に根管治療で十分に消毒されていないため、そこからまた細菌が出てきて、手術をした後に膿が再発します。
しかし、手術を成功させるためには、事前に根管が根の先まで消毒されていることが非常に大切です。根管が湾曲していたり、根管が石灰沈着で塞がっていても、清掃器具を根の先まで到達させて消毒を済ませておかないと、手術後の膿の再発率を下げることはできないのです。
もちろん、湾曲根管や石灰沈着で塞がっている根管でも根の先まで清掃器具が届いていれば、外科手術をしなくとも膿が治る可能性が十分あります。ですので、湾曲根管や石灰化根管でも、可能ならまずは手術をせずに根管治療で膿を直すことを当医院では目指しています。
但し、手術せずに根管治療で治すことを目指すとは言っても簡単ではありません。
湾曲根管の再根管治療の場合、最初の治療時にレッジという根管に段差ができていることが多く、器具がレッジに引っかかってしまい、その先の根管に清掃器具が届かなくなってしまいます。
そのことが元で、歯根の先にできた膿が治らないことも多く、再根管治療の成功率を下げる大きな原因の一つになってしまいます。
再根管治療は、既に人の手によって根管を削られています。
そのため、上手く根管が治療されていない場合、レッジなどの根管治療を阻む部分の修正を余儀なくされ、より多くの時間と高度な技術が術者に要求されます。
なんとかレッジの先に治療器具を進めるためにはCT画像が必要であり、同時に曲がっていく先が見えないながらも治療用顕微鏡による根管の視認も必要です。どちらの方向に治療器具が入っていっているかを目視で確認しながら、手指の感覚で根管を探っていきます。曲がった先の根管は顕微鏡でも見えないので、そこから先の治療は手指の感覚になってしまいますが、CT画像で三次元的に根管をイメージしながら治療を進めます。
次に、もう一つの難症例ケース、石灰化根管について説明します。
石灰沈着で根管が塞がっている長さがながければ長いほど、治療の難易度が上がります。
歯科用顕微鏡で見ても、石灰沈着により、根管が塞がった場所かどうかがわからなくなることもあり、下手に掘り進むと歯の壁に穴が開いてしまうことがあります。
更に、石灰化しながら根管が曲がっていると、石灰化している場所すら全く見えなくなり、それ以上もう治療ができなくなります。
4CT画像を読む力と術者の高度な技量を要する、難症例の根管治療
以上のように、根管治療はケースバイケースで、様々な対応を迫られることもあり簡単ではありません。
根管治療とは、歯科治療の基礎となる非常に重要な治療なのですが、それぞれの歯、それぞれの根管で状況が異なります。
根管治療は、術者の経験や技術により成功率が変わることも事実です。ご自身の歯を長期的に保存するという観点から、可能であれば歯髄を残すようにするということが大切です。
また、詰め物・被せ物治療をするときも歯髄に感染しにくいよう、精度の良い詰め物・被せ物治療をすることも必要です。
根管治療に至らないよう、むし歯が再発しない詰め物・被せ物治療の精度が非常に重要なのです。
下記の動画は、当院で行なった(難症例)石灰化根管の治療の動画です。
根管の途中から石灰化で根管が塞がっていたのですが、歯根の先に膿があり石灰化した根管が感染していました。感染をとり除き、根の先の膿をなくすためには石灰化した根管の感染を取らなければいけませんでした。
動画の途中から根管の石灰化によって顕微鏡でも根管治療が進められなくなってしまったため、CT画像を参考に根管治療を進めていきました。その結果、根管の感染が除去され、膿が無くなりました。
治療用顕微鏡の使用だけでなく、CT画像をよむ力と経験、技量が必要なケースでしたが根の先にできた膿を治すことができたケースです。
根管治療の成功率は根管の状態に大きく影響を受けます。
根管治療は簡単ではない、ということを認識していただけたらと思います。
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞