日本における歯の神経治療の現状
本サイトには、たびたび日本の根管治療の成功率は30〜50%(失敗率は50~70%)であるというデータを提示しております。
本ページでは、上記の成功率の裏付けとなる文献を紹介いたします。私自身も日々実感している事です。
政府統計による『保険診療請求回数の全国集計』が公表されています。その公表データを見ると、1年間における全国の永久歯の根管治療の保険診療請求件数は約1,350万件、そのうち抜髄は約600万件、感根処(感染根管処置)は、約750万件(表1)です。
抜髄とは、歯の神経をその歯が初めて抜く一回目の根管治療であり、後者の感根処(感染根管処置)とは、歯の神経の治療の再治療(根管治療のやり直し)のことです。
初めて歯の神経をとる根管治療よりも、歯の神経のやり直しである再根管治療(感染根管処置)の方が多いのです。これは何を示唆するのでしょうか。
一回目の根管治療(抜髄)が成功していれば、当然抜髄より再治療である感染根管処置が多いという事にはなりません。また、再根管治療が上手くいっていれば、感染根管処置の数は限りなく少なくなっていくはずです。つまり、抜髄も再根管治療(感染根管処置)も両方とも上手くいっていないのです。
一回目の根管治療(抜髄)が上手くいかず、再根管治療をしてもかなりの数の歯が治っていない事が推測されます。
その結果、抜歯されてしまうのです。
根管治療の成功率についての学術的データ
さらに、根管治療(歯の神経治療)が施された後、どのような経過を辿っているかを調べた調査データがあるのでご紹介いたします。
本サイトでも何度もでてきますが、下記の図は、根管処置歯における根尖部X線透過像の発現率を示したデータです。根管処置歯における根尖部X線透過像の発現率とは、根管治療した後の根の膿の発現率のことです。
根尖部とは歯の根っこの先端の事で、歯の根っこに膿があると、根尖部にある膿がレントゲンに影として映ります(膿を持っていても映らないことがあります)。
もちろん、この根尖部X線透過像の中には、治癒途中にあるものや、瘢痕治癒(傷のような治り方)したもの、咬合に起因するもの、垂直歯根歯折によるものなど、様々な原因のものも含まれますが、根管治療後4年後において、これら根尖部X線透過像の完全な消失が見られなければ根管治療は失敗とみなされるヨーロッパのガイドラインの基準と照らし合わせると、日本における根管治療の現状は、決して誇れるものではないと、本文献(※1)にも述べられています。
上記図では、上顎前歯は約70%、上顎小臼歯は約60%、上顎大臼歯は約65%、下顎前歯は約50%、下顎小臼歯は約55%、下顎大臼歯は約65%、智歯は約70%と、調査した歯において、根尖部X線透過像が50%以上みられています。
これらより、日本における根管治療の成功率は30~50%(失敗率は50~70%)であると、当サイトで提示しています。
根管治療失敗の主な理由
また、日本における根管治療の成功率が、なぜ低いのかについて、参考文献(※1)では、歯内療法における無菌的処置原則が必ずしも守れられていないと言及しています。
歯内療法(根管治療)における無菌的処置原則とは、ラバーダム防湿処置のことです。
ラバーダム防湿を行わない根管治療の成績は、ラバーダム防湿を行って治療した群と比べると、統計学的に優位に劣ると報告されています。
また、多くの患者がラバーダム防湿下での処置を要望しているにもかかわらず、実際にラバーダム防湿処置を必ず行うと答えたのは、一般歯科医師で5.4%、日本歯内療法学会会員でさえも、25.4%に過ぎなかったと報告されています。
もちろん、根管治療時のラバーダム処置は日本歯内療法学会のガイドラインでは、必須とされています。
根管治療を行うにあたって、他の先進国でもラバーダム防湿は必須の処置です。根管治療の成功率を上げるためには、まず、するべき事をする、使うべき道具を使う事が重要です。そこからが、スタートなのです。
根管治療を成功させ抜歯から免れるためには、根管治療を成功させる機材、治療方法、治療時間など、様々なものが必要であるという事をご理解いただけたらと思います。