記事概要
歯科医院でむし歯の治療をするためにレントゲンを撮ったところ、根管治療をしてある歯に膿があると指摘されたそうです。痛みがないのでこのまま放置するか、膿の治療をするべきか迷っているようです。
このような経験をお持ちの方は意外に多いのではないでしょうか。当医院にいらっしゃった患者さんも、たまたま撮ったレントゲン写真やCT画像で主訴の歯以外に膿を持っている歯が多く見つかります。
では、根管治療してある歯に膿があるが、痛みがでていない歯の治療について当医院の見解を以下の4つの項目に分けてお伝えしたいと思います。
1根管治療は難しい治療の一つ
むし歯が重症化すると歯髄(歯の中の神経)が炎症起こして歯痛を起こしたり、歯髄自体が死んで腐敗したりします。その歯髄をとったり、細菌によって汚染された根管を消毒したりする治療を根管治療と言います。むし歯で歯が痛んだり、神経の通り道である根管が汚染されて歯根の周りに炎症を起こしたとしても根管治療によって再度歯を使うことができるようになります。
根管治療をしたからこれで安心って思いがちですよね。実は、根管治療は失敗することがあるのです。残念ながら、特に日本では根管治療の成功率があまり高くありません。
根管治療は、歯科治療の中でも特に難しい治療の一つなのです。何故難しいかというと、歯の神経の通り道である根管は、皆さんが想像されるような単純な一本の管でないことも多く、歯根の中で複雑に枝分かれや吻合をしていたり、三次元的に大きく湾曲していたりと、根管治療を成功させるのに必要な根管の徹底的な清掃が困難を極めることも多いのです。そして根管治療が失敗すると、歯根の周りに炎症を起こし膿ができてしまいます。
2痛みや腫れが無くても膿をもっている場合がある
根管治療した歯の根に膿があれば、歯茎が腫れたり痛くなるだろうから、今はそういう症状がないので大丈夫って思いますよね。ちょっとショックかもしれませんが、歯茎が腫れたり痛みがなかったとしても、歯の根の周りに膿ができていることがあるのです。根の周りの炎症が慢性化してしまうと、膿があっても必ずしも歯茎が腫れたり痛んだりなどの症状が出ないことがあります。
症状が無いので気が付かず、そのまま日々の生活を普通におくっていることがあります。そしてある時、痛みや歯茎が腫れて膿が実はあったことに気が付くこともありますし、相談いただいた方のように症状が無くても偶然撮ったレントゲンやCT画像で根管治療した歯に膿が見つかることもよくあります。
このように症状が無くても歯根の周りに膿があることも多いのです。
3膿の治療は早くした方が良い?
症状が出ていない膿が歯根の周りに見つかった場合、特に今まで支障もなく過ごせて来ていたので、見つかった今、根管治療すべきか迷われる方もいると思います。
歯根の周りに長期間炎症が続くと免疫反応が弱まり、細菌が根管から歯根の外の組織に入り込みやすくなります。そして、歯根の外で細菌は繁殖し続けバイオフィルムという細菌の塊を作ります。場合によっては、歯根の外側に歯石のような石灰化物を沈着させ、根の外で定着する事があります。そうなると、根の内部を消毒する通常の根管治療では外にはびこっている細菌を除去できず膿を治すことが難しくなります。したがって、歯根の外で細菌がバイオフィルムを作る前に、根管治療により治せる時点で治療を開始するべきだということがわかると思います。
根管治療で膿が治せなくなった場合は、外科的歯内療法(歯根尖切除術・意図的再植術)という小手術を行いますが、膿の大きさが10mmを超えると外科的歯内療法の成功率が下がるという報告があります。根の先の膿が大きくなるのには、時間がかかるので大きくなる前に治療をすることが望ましいのです。膿が大きくなると、外科的歯内療法を行っても助けられずに抜歯になる可能性も上がってしまうということになります。
以上のことから、現在症状が出ていないとしても歯根に膿が見つかった場合は、治りにくい膿に変わる前に再根管治療をできるだけ早く行うことが肝要となります。要は、根管治療で治せるときに治すということです。
但し、根管治療は一筋縄ではいかない治療です。根管治療の成功率を上げるためには、まず根管の状態の詳しい把握が必要です。そのためには、CBCT画像による根管の三次元的な診断が必要です。根管の走行がわからなければ、隠れている根管など根管治療時にどこに細菌感染を残しそうかがわからず、見落とししてしまう可能性があるからです。
また、根管治療時には高倍率で拡大が可能な歯科用顕微鏡の治療も必須です。根管は細く暗く、肉眼やルーペではよく観察できないためどこかに治療の不備(感染の取り残しなど)を残してしまう可能性が高まります。歯科用顕微鏡は、肉眼の約30倍まで拡大が可能であり、暗く細い根管内を明るく照らすことができるので、精密に観察しながら治療をすることが可能です。当然、治療の成功率は上がりますが、高倍率で視認しながらの根管治療は手技が煩雑で慣れが必要です。
4膿をつくらないで済むようにするためには
根管治療が失敗して膿ができてしまうと、最悪は抜歯になってしまう可能性もあります。そのため、根管治療をしない状況をつくることが抜歯を免れることに繋がります。
根管治療が必要になるのは、重症なむし歯ができてしまった場合が多いです。重症なむし歯ができるのは、詰め物・被せ物治療をした歯のむし歯の再発が多いです。詰め物や被せ物治療をした歯は、既に歯を大きく削られており、その状態で見むし歯が再発すると残った歯の部分もむし歯で溶かされ歯の神経である歯髄に細菌が入り込みやすくなります。そうなると、根管治療が必要になります。
根管治療をしないようにするためには、詰め物・被せ物治療をした歯のむし歯の再発を抑えることが重要です。むし歯の再発は、歯と詰め物や被せ物とのつなぎ目からできることが多く、そこに歯垢(プラーク)が溜まりやすいのです。そしてつなぎ目の歯垢の溜まりやすさを左右するのが詰め物・被せ物の適合性です。歯と詰め物や被せ物とのつなぎ目が隙間や段差なくピッタリ合っている状態を適合が良いと言います。逆に、歯と詰め物や被せ物とのつなぎ目に隙間や段差あるピッタリ合っていない状態を適合が悪い(不適合)と言います。この適合性が、歯垢の溜まりやすさを左右し、そこからのむし歯の再発を左右します。つなぎ目に隙間や段差があれば歯垢は溜まりやすくなり、そこに溜まった歯垢はもう落とすことができなくなり、むし歯の再発の原因になるのです。
根管治療をしないようにし抜歯を免れるためには、まずは歯に適合の良い詰め物・被せ物をすることが重要です。そういうことから、当医院では根管治療は元より、詰め物・被せ物治療と歯とのつなぎ目をピッタリ合わせてむし歯の再発を最大限抑えることにも力を入れています。
全国で11名の歯科医師のみ、
日本で最も厳しい顕微鏡歯科基準をクリア
顕微鏡歯科ネットワークジャパン認定医・日本顕微鏡学会認定医
根管治療・顕微鏡歯科治療専門 歯科医岡野 眞